さようなら、中丸さん

私が由比ガ浜商店街の景観まちづくりにかかわることになったのは、数年前、この通りにある私の工事現場に酒屋の中丸さんが困った顔でやってきたからでした。由比ガ浜中央商店街の景観協議会会長だった中丸さんは、私の設計したビルが景観ルールに違反しているかもという連絡を受けて確かめに来られました。工事にかかる前に中丸さんには図面で説明していたので問題ないつもりだったのですが、解釈によっては違反とも受け取れる箇所があったのです。その件の反省から、今後他の事業主の案件で図面を読み解く必要があったら協力させてくださいとお願いしました。中丸さんはこころよく受け入れてくれて、そこから商店街のデザインレビュー制度につながる協力活動が始まったのです。マンションや店舗の計画があると呼んでくれるので、景観ルールにかんがみてどうかという意見を出させてもらっています。
中丸さんはよく「昔は酒屋はまちの情報通だったのよ」と言っていました。御用聞きに各戸をまわっているので、結婚相手家族の評判をこっそり酒屋に聞いたりしたものだそうです。でもだんだん御用聞きを呼ぶ家も少なくなり、近所づきあいも減ってきて、住民同士が疎遠になってきた。そのためか中丸さんは、まちのことは自分がなんとかしなくては、という気持ちを持たれていたようで、景観協議会会長以外に町内会長も引き受けていました。
昨日の夜、中丸さんのお葬式がありました。夏頃まではイベントにも出て元気な笑顔を見せていたのに、とても急な訃報でした。いつも3輪バイクでまちをぐるぐる回っていた中丸さんの姿は商店街のシンボルのひとつでした。でも最期には奥様に、もう疲れたよ、と打ち明けていたそうです。どうかあっちでのんびりしてください。ありがとうございました。さようなら、中丸さん。

あんどんワークショップの説明を聞く中丸さん(右端)

11/12/13

THE BANKは由比ガ浜にあるバーです。
しょっちゅう店の前を通っているのですが、なかなか利用する機会がありません。数年前に一度だけここでビールを飲んだことがあります。昭和2年に建てられた銀行の建物で、中に当時の出納カウンタが残っていました。外観はY字の道に挟まれた二等辺三角形で頂点に入口があります。小さな建物ですが、銀行建築らしく古典主義的な装飾が施されており、格式が感じられます。特に、帯状に建物を巻くモールディングと付け柱上端の柱頭が特徴的です。でもよく見るとその細部のデザインは様式には則っていなくて、建築家のオリジナルのようです。アール・デコの影響かも知れません。鎌倉には洋館と呼ばれる戦前の洋風建築がいくつか残っていますが、いわゆる古典主義様式の建築は今やこれだけではないでしょうか。古典主義は公共建築のための様式ですが、鎌倉の洋館はほとんど住宅建築なのでチューダー様式とかコロニアル様式など洋風住宅の系統が多いのです。
実は最近、鎌倉近辺の古い名建築を雑誌で紹介する仕事を手伝った際、ぜひともこの建物を紹介したくて外観の写真は撮ったのですが、時間が早くて中に入れなかったので、もう一度トライしてみたいと思っています。
ところで、このあいだ図書館で借りたチャンドラーの小説を読んで、探偵のマーロウが事務所を構えているのはロサンゼルスだということを知りました。葉山にあるマーロウというプリン屋さんの看板には帽子とコートのボギー風の男の絵が描いてありますが、あの格好ではロスでは目立ってしょうがない。汗だくになってしまう。どこからあのイメージが来てるのだろう。
なぜマーロウの話かというと、その小説ではバーで飲むあるカクテルがキーになっているのです。だからこんどTHE BANKに行ったらそれを頼むつもりなんです。
今日は’11.12.13。

コミュニティデザイン

今年春に出た山崎亮さんの「コミュニティデザイン」(学芸出版社)はまちづくりの前段階の“なかまづくり”の実例がたくさん紹介されていて勉強になります。卒論研究テーマをさがしていた女学生が、地図にダーツを投げてささった離島に単身調査に乗り込んでいく話、おもしろいです。山崎さんとは学生向けワークショップで何度かご一緒しましたが、いつもニコニコ顔です。建築家はあまりニコニコしない人が多いのですが、人をつなげる仕事には人当たりの良さが必要ですね。「建築業界は最近不況ですね」と言ったら「役所に行けば手伝ってほしがっている役人がごろごろしてますよ。設計の仕事がないなんて言ってる建築家は探してないだけですよ」と豪語してました。

http://www.amazon.co.jp/コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる-山崎-亮/