家づくり日記その6「建築費の支払いは」


堤さんご夫婦(仮名)とのキャッチボールは、2週間に1度のペースで打ち合せをしています。今回は模型を用意して内部空間のイメージを確認しています。
設計をすすめるにあたって、予算を考えながら規模や仕様を決めていきます。堤さんの場合、住宅にかかる費用はほぼ全額が銀行からの借入です。当初大枠で5千万円と考えていた堤さんですが、銀行に審査してもらったところ、5,500万円までのローンが組めるという回答が帰ってきました。土地代が想定を少し越えた3,100万円だったので、建築にかけられる費用は2,400万円です。この金額内に工事費と設計料を収めなくてはなりません。そこで工事費は2,000万円、設計料は220万円、税込みで約2,400万円という前提条件で設計をはじめました。
土地代の融資を受けた後、次に設計料を含めた建築費の融資を実行してもらうためには、その費用の裏付けとして建築工事請負契約書と設計監理契約書を銀行に提示する必要があります。設計監理契約はすでに交わされていますが、請負契約はまだです。一般的には設計が完了して工務店から見積りを取り、そのうえで契約します。ですので設計途中で請負契約書はつくれません。しかし借り手が望むタイミングで融資してもらうために早めに手続きをはじめることが一般的です。例えば、設計契約では設計料の支払を着手時、基本設計完了時、実施設計完了時、工事監理完了時の4回に分割してクライアントから支払っていただきます。また、建設費は着工時、上棟時、完成時の3回に分割することが多いです。それぞれのタイミングに合わせて、借り手は支払日の前月に銀行に請求書を送って準備を依頼します。
建築工事請負契約書は工務店がつくります。堤さんのケースでは、すでに施工する工務店が決まっています。私の設計する住宅の大半をお願いしている工務店です。長年の信頼関係があるので、設計途中の図面をもとに概算見積もりと暫定的な請負契約書をつくってもらいます。これを銀行に提出することでローンの手続きは先行できます。正式な見積りと契約は設計が完了した時に正確に行います。ただし請負額が減額するとローンの借入額も減額になります。必要以上は融資できないからです。逆に増額しても借入額は増えません。
また、クライアントによっては複数の工務店から見積りをとって比べたいと考えるでしょう。時間があればそれでもかまいません。その場合、設計料は自己資金でまかなって、融資実行の手続きが終わってから着工すればいいのです。

街路灯を消してみました。


2016年12月8日夜、由比ガ浜商店街の街路灯が消えました。3.11の停電のときを思い出します。ただし今回は停電ではなく、街路灯のリニューアル計画の検討のために街路灯のない状況を観察する実験です。既存の街路灯が消えた中に、仮設でダウンライト型の電灯をともしてみました。なつかしい夜景が出現しました。商店街のある店主は「これじゃあしたのジョーだね」と言っていました。
来年設置する予定の新しい街路灯はダウンライト型にすることが決まっています。ただ、具体的なデザインはまだ検討中です。雰囲気と明るさの関係、歩行の安全性、そして商店街のコンセプトである品のある景観などを考慮して綿密に設計にする必要があります。デザインは私を含めたひとまち鎌倉ネットワークの3人の建築家が検討を進めています。それぞれが制作したフードタイプ、アンドンタイプ、円筒タイプのデザイン案について商店街の理事たちに提案していますが、どうなるかまだわかりません。あしたはどっちだ。

家づくり日記その5「キャッチボール開始」


堤さんご夫婦の住まいに対する要望をうかがい、ご主人の要望スケッチも見せてもらって、設計のプロセスが始まりました。お二人の要望の数はそれほど多くはないのですが、住まい方のイメージはちゃんとお持ちで、それはお話や要望スケッチからわかります。その要望を敷地条件や予算の枠内で具体的な空間の形にするのが設計の仕事です。そして建て主が気づかない敷地の特徴を考慮したり、何十年か後の家族の形を想像したり、耐震や暑さ寒さに対する性能を計算したりするのも設計のプロとしての業務です。もちろんデザインも重要で、居心地のいい室内とまち並みにあった外観を心がけます。
前回の設計打ち合わせの中で、堤さんたちの住まいのイメージは、ものを見せないすっきりした部屋で家族いっしょの時間を大切にすごすことと理解しました。収納庫に道具や服などすべて仕舞って室内には棚やタンスなどの収納を感じさせるものをなくしたいと言われ、要望スケッチには寝室より大きなウォークインクローゼットが描かれています。また、大きなダイニングテーブルとみんなで料理できるキッチンがほしいし、大きなソファで団らんの楽しめる居間にしたいとの希望です。そのほか、個室は最小限でいい、土間があるといい、風呂から緑を眺めたいなどの要望も出ました。
これらの要望をうかがったので、私は案を具体的に考え始めました。そしてその2週間後の打ち合わせでお出しした基本設計の第1案が上の写真です。これは居間が2階にあるプランで、眺めの良さと高い天井をもつ2階を団らんのためのスペースにしました。土間のあるアイランドキッチンがあり、そして大きな納戸を居間のとなりにつくってあります。一方、1階には大きなワンルームの寝室がありますが、この部屋は仕切ったりつなげたり二段ベッドをつけたりできる仕組みです。予算と坪単価から延べ面積は28坪に納めています。
これはたたき台で、要望を敷地と予算にあてはめて条件の整理をすることが今回の案の目的です。これを見ながら議論したところ、2階にトイレはいらない、洋服収納は寝室に近くに、テレビのかわりに薪ストーブを置けるか、バルコニーをつけたい、などの意見が出ました。それらは次の案で検討されます。こうしたやりとりをくり返す中で、新しい気づきがあったり暮らしのイメージの修正があったりして設計は進んでいきます。このキャッチボールをたっぷりするほど、本当に気に入った自分たちだけの住まいに近づくのだと思います。