樹齢53年のヒノキ

 

昨年の春から参加している「緑のレンジャー・シニア講座」の実習で、鎌倉の源氏山公園にある一本のヒノキを切り倒した。高さは15メートルくらいあり、胴回りもなかなか太い木だったので、数人が交代しながらノコギリを引き、最後はロープで引っ張って倒した。
この木を製材すると何本くらいの柱が取れるだろうか。直径45センチくらいだったから4寸角(120mm)を取ろうとすると4本がいいところか、長さを三等分すると5mものが12本。真四角の2階建ての家を建てるとして、3間×3間の9坪ハウスの柱も12本。もちろん土台や梁も必要だが、柱だけならこの切り倒したヒノキでまかなえるわけだ。当日は切ったあと、運びやすい2mくらいの長さに玉切りして邪魔にならないところに放置した。あとは土に返るのを気長に待つのがこの木の行く末だ。数十年前に建材となるべく植えられたはずだが、本来の使命を全うできないことになった。もしこの木を無償でもらったとしても、建材にするには運搬費、乾燥費、製材費がかかって、材木屋で買った方が安いということになりかねない。自分の車で運べる分だけせいぜいストーブの薪にするくらいが損のない使い道かもしれない。
そんなことを思いながらこの写真を眺めていると年輪に気づいた。このヒノキは樹齢何年なんだろう。1,2,3・・・・・・53。なに!もう一度数えた。やはり53本ある。
私とおない年じゃないか。 このヒノキは53年の樹齢を重ねて、小さな家一軒分の柱になる太さになった。ヒノキとしてやるべきことはやってきたと言えるだろう。同じ年に生まれた私のほうはどうだろう。ニンゲンとしてやるべきことをやってこれたかな。

黄金町の無国籍レストラン


横浜の黄金町にあるJack&Bettyという名画座に1960年代につくられたグルジアの映画を見に行った。放浪の画家の話で、静謐な詩情あふれる美しい映画だった。映画を見た後、伊勢佐木町の方に歩いていると、小さなレストランらしい店の前を通りかかった。看板を見ると不思議な文字が書いてある。何語だろう?とおもってよく見ると、それは看板をくっつけてあった接着剤の跡らしい。 むむっ!これぞ作為のないわび芸術の至高である。それはともかく、この空き店舗の風景になぜか惹かれた。白い横長の壁に横長の窓。壁の上にレンガ張りの庇。壁の手前に水平の植え込み。それら3つの横長の要素と対照的に垂直に立つ一本の街路樹。ここまではいい。しかし左に立っている緑色の街灯の柱がそぐわない。おしい。
そんなことを思ったのも、映画に出てきた原っぱにぽつんと店の建っているシーンが印象的だったからかもしれない。