カマキンの最期


この建物のことはいつもキンビと呼んでいて、カマキンと呼ばれているとは知らなかった。2年前にこの美術館をテーマにしてワークショップを企画したときに、学芸員の方からその呼び方を初めて聞いたと思う。確かに近代美術館は各地にあるので、鎌倉にある神奈川県立近代美術館鎌倉館を特定するのにカマをつけたい気持ちはわからないではない。

しかし、この建物は日本で最初に建てられた近代美術館ではなかったか。つまり建ったときは日本で近代美術館と呼べる施設はこの建物だけで、キンビといえばここのことだったわけだ。それが後年、他のキンビと区別するためにカマキンになったのだろう。 
シンケルという18世紀ドイツの建築家の代表作にアルテス・ムゼウムという美術館がある。 見事な列柱を持つポーチコで有名な建物だが、なぜその名前なのか最近知った。ドイツ語でアルテスとは古いという意味で、シンケルの美術館ができたあとに別の敷地に新しい美術館が建てられて、シンケルのは「古い方の美術館」と呼ばれることになったそうだ。カマキンも同じリクツなわけだ。
だがカマキンという呼び方はもう必要なくなる。来年1月末をもって美術館としての使用は終わるからだ。幸い多くの人たちの努力によって建物は保存されることがほぼ決まったようだが、次の用途はまだわからないし、耐震補強を含む大幅な改修工事が見込まれている。
カマキンという名前と美術館としての空間の最期はあと2ヶ月と迫っている。

 

たためる椅子の座り心地


近所の商店街が主催する無料のコンサートに出かけた。無料でも出演者はプロのベテランぞろいで、楽しいコンサートだった。
会場に着いたのが開演後だったので後ろの方の空いている席に座った。椅子は固定ではなく、並べているものだった。しばらく聴いていたところ、椅子の座り心地が良いことに気づいた。木の枠に布のカバーが掛けてあるようだ。もしや?と思って休憩時間に照明がついてからよく見てみるとやはり建築家の吉村順三らが設計した有名な「たためる椅子」だった。折りたたみ式であるが座り心地のよさに定評がある椅子で、一度座ってみたいと思っていた作品である。
この会場は鎌倉女子大学の施設なのだが、建物のデザインも凝っていて周囲の環境になじんだ外観と木のぬくもりを感じる内装がすばらしい。備品である椅子もパイプ椅子でなく建物のデザインに合わせた質の高いものを選んでいて、音と一緒に空間も楽しめた一夜だった。

くるくる

今朝、事務所まで歩いてくる途中、開店前の民家風食堂の店先に子供服や本がぱらぱらと並べてあるのが目に入った。張り紙にくるくるです、ご自由にお持ちください、の案内。くるくるという物々交換活動のことは以前から知っていたがこんな路地で野菜の無人販売みたいにやっているとは知らなかった。古本の後ろに巻いた図面みたいなものがあり、よくみると和紙のすだれだった。事務所の日除けにさせてもらおうと何か交換できるものはないかとカバンをさぐったが手帳と弁当しかない。本も持っていたが今週の授業で使うのでまだくるくるできない。申し訳ないが一方的にいただくことにした。こんどは何かいらなくなったものを持っていこうと思う。鎌倉ではこんなエコ活動をそこここでやっていて、それがひとつの鎌倉生活のスタイルになっているようだ。