逃げ地図ワークショップ

「そなえる鎌倉」連続シンポジウムの地区シンポジウム第1回が材木座公会堂で行われました。日建設計ボランティア部の羽鳥達也さんたちによる「逃げ地図」のワークショップです。地区の住民の方々約30名が参加してくださいました。
最初に羽鳥さんから「逃げ地図」の作製方法についての説明がありました。過去の津波の限界ラインにゴールを設定し、そこからお年寄りの歩く速度で3分ごとの距離に色鉛筆で道路に色を塗っていく作業です。

説明を聞いてもみなさんよくわからない様子。でも羽鳥さんは「作業を始めればすぐにわかります」と言っています。
そして5つのグループに分かれて作業開始。地図に色を塗るのですが、地図上で129mの長さに相当する革紐で距離を測りながら色を変えて塗っていきます。でも地図に書いてあっても現在は通れない道や、暗渠になっていて津波が来ると水があふれて通れなくなる道など、地元の住民でないと知らない情報を出し合いながら、避難可能なルートに彩色していきました。

羽鳥さんの言ったとおり、作業を始めるとみなさんすぐに要領を得て、「ここは行き止まりだ」「この下は暗渠になってる」と熱心に取り組んでいました。

そしてできた「逃げ地図」が上の写真です。エリアの右側にいくつかある赤い○がゴールで、そこまで逃げるのにかかる時間に応じて緑→黄緑→黄色→オレンジ→赤→紫→黒と色分けされています。黒い道は18分以上かかるわけです(お年寄りの歩く速度を毎分43mとして計算)。これを見てわかることは、材木座にいる場合の逃げる方向は海から遠ざかる北方向ではなく、海岸と並行に東方向に逃げるべきだという事実です。また、当事務所の前の道はオレンジなので、12分かかることがわかりました。

今回の地区シンポの成果は11/18の第4回市民シンポジウムで報告される予定です。

コミュニティ真鶴の石

真鶴に釣りに行ったついでに、以前から見たかった「コミュニティ真鶴」の建物を見てきました。真鶴町はまちづくりの指針として独自の「美の基準」を定めて魅力ある建物や道空間を大切にしているそうです。その基準に基づいて多くの町民がワークショップによって設計を進めたという実験的な試みの成果がこの「コミュニティ真鶴」なのだそうです。
各部の形もユニークですが、材料とその使い方が、どこか懐かしい印象を見る人に抱かせる設計です。ですから建物はとても人なつこい感じがします。真鶴は小松石の産地なので町に石屋さんが多いのですが、この建物には石製品の製作過程で出る石のかけらを集めて外壁に張っているところがあります(写真の奥の壁)。かけらは普段はゴミになっているそうです。

小値賀島で民泊

ちょっと早い夏休みを取って、家族で長崎県に行ってきました。五島列島にある小値賀島です。五島列島と言えば釣りのメッカです。竿を宅配で送って乗り込みました。
飛行機、バス、高速船を乗り継いで6時間半、思ったより早い。港に「民泊ぶうさんち」のぶうさんと美保さんが迎えに来てくれました。民泊というのはこの島のオリジナルの滞在のしかたで、民宿とはちがいます。建物はまったく普通の民家で、台所でいっしょにご飯をつくって食べて飲んで片付けもするという、お客というより居そうろうみたいな感じ。洗濯や掃除をする人も。それで一泊二食¥6,300です。民宿の方が楽じゃないか、とも思ったのですが、昨年利用した弟一家がとても良かったというのでいっしょに行くことになったのです。

ぶうさんちはぶうさんが廃屋になっていた古民家を借り、ご自分で手直しした家で、しぶい玄関土間があり、ちょっと大きめの風呂場がありますが、あとはただの自宅。でも庭のテーブルからの眺めは山あいの民家の瓦屋根越しに湾が見えてとても美しい。ぶうさんも海が見える立地が気に入ってこの家を借りることにしたのだそうです。不動産業界で言う「海見え物件」ですね。

さて、気になる食事ですが、じつはぶうさんは元板前、そこにきてとれたての五島の海の幸ですからまるで高級料亭!。江ノ島あたりの魚食堂とは比べものになりません。つぎつぎとうまい刺身や焼き物や汁物が出てきます。野菜も島の畑で獲れたものばかりで新鮮。しかも一手間かかってます。どれもおいしい。盛りつけも美しい。実は民泊なんですが、ぶうさんの前では手伝う余地なしです。酒も料理に合わせて出してくれました。竿と一緒に送っておいたワインが場違いでした。

さて、小値賀島は噴火でできた旧鎌倉エリアくらいの大きさの溶岩性の島です。そこにいくつかの集落が散在していて、魚はもちろん米から牛、野菜まで生産しており、自給自足もできる豊かな土地です。地元の人たちがみな気さくで、また住民同士の隣近所のつきあいが盛んで、お裾分けがご近所からどんどんやってくるのです。じっさい、我々が滞在していた4日間のうちにご近所からいただいたものが鰹(2本)、スイカ(1個)、ところてん(1バット)、シイラ(1本)です。切り身じゃない、全部まるのまんまです。しまいには夕食時にお隣の兄さんが焼酎一升持って酒盛りしに来ました。

お隣さんといえば、早朝に散歩していると隣のおじいさんが耕耘機に乗っているので田んぼに行くんですか、と声をかけたら「行くか?」といって荷台に乗せてくれました。耕耘機で道路走るのは子供の頃見たことあったけど、乗ったのは初めてです。するとあちこちで同じような耕耘機とすれちがいました。どうやら島ではお年寄りの軽トラがわりになっているようです。最高時速10kmくらいだし。
午前中は歩いて3分の波止場におりて釣り、午後はぶうさんちの車を借りてビーチで海水浴。いただいたスイカでスイカ割りも。夕食後も波止場に行って夜釣りしつつ、堤防に寝そべって夕涼み。もう島の暮らし満喫しました。たしかにこれは民泊しなくてはできない島暮らし体験ですね。
この民泊以外にも小値賀島オリジナルの滞在プランがあります。古民家ステイ、といって、こちらはちょっと高級志向。程度のいい古民家を建築家がかっこよくリフォームして素泊まりの宿泊施設にしています。料理はやはり古民家のレストランに行くか、デリバリーしてもらいます。朝食も届けてくれます。若いけど経験豊富なシェフが島の食材を活かしたメニューを用意しています。一泊2食で¥25,000くらい。ゴージャスでプライベートな旅には悪くないですね。

これらの島オリジナルの滞在プランは始まってまだ数年のものなのですが、すでに観光業界の注目の的だそうで数々の観光賞を受賞しています。よくできてるなあ。誰が考えたんだろう、とぶうさんに聞いたら、じつは仕掛け人がいました。京都の大学を出て島に渡ってきたヨソ者で、いろいろなアイデアを出し、専門家を呼び、島民を巻き込んで小値賀島を楽しい島暮らし体験の観光地にしたのだそうです。新規の箱物などはつくらず、島の昔ながらの暮らしを売り物にしていったのです。小値賀アイランド・ツーリズムという組織をつくり、観光のすべてのアイテムの窓口をここに一本化し、トータルで楽しむことをサポートしています。たくさんの自治体の視察が引きも切らないそうです。
もしかして、あのおじいさんの耕耘機も偶然を装って実はプランに組み込まれていたのかも?

陸前高田の集会所プロジェクト

今年の夏は大学の研究室のプロジェクトである陸前高田の集会所建設で忙しい。約100戸の半数が津波で被災した集落で、津波に流された公民館が再建されるまでのあいだ、仮の集会施設が求められています。ある企業の寄付金により必要最小限の建物を建てることが決まり、その設計を研究室の学生と行っています。
今週もその地区の自治会の方々との打合せに行ってきました。私が現地に行くのは今回で2度目ですが、現地の方と市役所の会議室で会議したり、お宅に伺ったりしてこれまでのまちの様子や震災当時の状況などをお聞きしながらプロジェクトを進めています。
写真は自治会の方と市役所のプレハブの会議室で話をしている様子ですが、みなさん姓が「戸羽」さんです。100世帯の半分くらいは同じ姓なのだそうです。それぞれをどうお呼びしたらいいか困って「お互いをどう呼んでいるんですか」とうかがうと下の名前や屋号で呼んでいるそうですが、外部の人間にはすぐ真似できないです。
いま、そのプロジェクトでちょっと壁にぶつかっているのですが、それは現地で大工さんが忙しくて仕事を引き受けてくれる人がいないということです。陸前高田のいくつかの工務店をあたってみましたが、みな2年後くらいまで仕事が詰まっていて今年の夏の工事など引き受けられないといわれてしまいました。しかたがないのでなるべく簡単に工事できる設計にして、いざとなったら学生たちが自力建設できるように考えています。