小値賀島で民泊

ちょっと早い夏休みを取って、家族で長崎県に行ってきました。五島列島にある小値賀島です。五島列島と言えば釣りのメッカです。竿を宅配で送って乗り込みました。
飛行機、バス、高速船を乗り継いで6時間半、思ったより早い。港に「民泊ぶうさんち」のぶうさんと美保さんが迎えに来てくれました。民泊というのはこの島のオリジナルの滞在のしかたで、民宿とはちがいます。建物はまったく普通の民家で、台所でいっしょにご飯をつくって食べて飲んで片付けもするという、お客というより居そうろうみたいな感じ。洗濯や掃除をする人も。それで一泊二食¥6,300です。民宿の方が楽じゃないか、とも思ったのですが、昨年利用した弟一家がとても良かったというのでいっしょに行くことになったのです。

ぶうさんちはぶうさんが廃屋になっていた古民家を借り、ご自分で手直しした家で、しぶい玄関土間があり、ちょっと大きめの風呂場がありますが、あとはただの自宅。でも庭のテーブルからの眺めは山あいの民家の瓦屋根越しに湾が見えてとても美しい。ぶうさんも海が見える立地が気に入ってこの家を借りることにしたのだそうです。不動産業界で言う「海見え物件」ですね。

さて、気になる食事ですが、じつはぶうさんは元板前、そこにきてとれたての五島の海の幸ですからまるで高級料亭!。江ノ島あたりの魚食堂とは比べものになりません。つぎつぎとうまい刺身や焼き物や汁物が出てきます。野菜も島の畑で獲れたものばかりで新鮮。しかも一手間かかってます。どれもおいしい。盛りつけも美しい。実は民泊なんですが、ぶうさんの前では手伝う余地なしです。酒も料理に合わせて出してくれました。竿と一緒に送っておいたワインが場違いでした。

さて、小値賀島は噴火でできた旧鎌倉エリアくらいの大きさの溶岩性の島です。そこにいくつかの集落が散在していて、魚はもちろん米から牛、野菜まで生産しており、自給自足もできる豊かな土地です。地元の人たちがみな気さくで、また住民同士の隣近所のつきあいが盛んで、お裾分けがご近所からどんどんやってくるのです。じっさい、我々が滞在していた4日間のうちにご近所からいただいたものが鰹(2本)、スイカ(1個)、ところてん(1バット)、シイラ(1本)です。切り身じゃない、全部まるのまんまです。しまいには夕食時にお隣の兄さんが焼酎一升持って酒盛りしに来ました。

お隣さんといえば、早朝に散歩していると隣のおじいさんが耕耘機に乗っているので田んぼに行くんですか、と声をかけたら「行くか?」といって荷台に乗せてくれました。耕耘機で道路走るのは子供の頃見たことあったけど、乗ったのは初めてです。するとあちこちで同じような耕耘機とすれちがいました。どうやら島ではお年寄りの軽トラがわりになっているようです。最高時速10kmくらいだし。
午前中は歩いて3分の波止場におりて釣り、午後はぶうさんちの車を借りてビーチで海水浴。いただいたスイカでスイカ割りも。夕食後も波止場に行って夜釣りしつつ、堤防に寝そべって夕涼み。もう島の暮らし満喫しました。たしかにこれは民泊しなくてはできない島暮らし体験ですね。
この民泊以外にも小値賀島オリジナルの滞在プランがあります。古民家ステイ、といって、こちらはちょっと高級志向。程度のいい古民家を建築家がかっこよくリフォームして素泊まりの宿泊施設にしています。料理はやはり古民家のレストランに行くか、デリバリーしてもらいます。朝食も届けてくれます。若いけど経験豊富なシェフが島の食材を活かしたメニューを用意しています。一泊2食で¥25,000くらい。ゴージャスでプライベートな旅には悪くないですね。

これらの島オリジナルの滞在プランは始まってまだ数年のものなのですが、すでに観光業界の注目の的だそうで数々の観光賞を受賞しています。よくできてるなあ。誰が考えたんだろう、とぶうさんに聞いたら、じつは仕掛け人がいました。京都の大学を出て島に渡ってきたヨソ者で、いろいろなアイデアを出し、専門家を呼び、島民を巻き込んで小値賀島を楽しい島暮らし体験の観光地にしたのだそうです。新規の箱物などはつくらず、島の昔ながらの暮らしを売り物にしていったのです。小値賀アイランド・ツーリズムという組織をつくり、観光のすべてのアイテムの窓口をここに一本化し、トータルで楽しむことをサポートしています。たくさんの自治体の視察が引きも切らないそうです。
もしかして、あのおじいさんの耕耘機も偶然を装って実はプランに組み込まれていたのかも?