モダンジャズはお勉強

大道芸イベントで有名な横浜の野毛を歩いていたらジャズのビートが聞こえてきた。入り口のドアを開け放っている喫茶店があって「モダンジャズcoffeeちぐさ」という看板が出ている。横浜に戦前からやっている有名なジャズ喫茶があるという話は聞いたことがあった。確か少し前に店主が亡くなって閉店したのをファンが引き継いで再開したという記事を新聞で読んだ気がする。「ちぐさ」という喫茶店らしくない店名が記憶に残っていた。開いているドアから中をうかがうと、中高年の男性客が数人、なにやらテーブルの端をたたいてリズムをとったりしているではないか。やや引いたが、ジャズ喫茶を体験したことがないのでいい機会と思って入店した。
インテリアはちょっと昭和の薫りが残る純喫茶という風情の、それはそれで今となっては稀少な空間であるが、それより驚いたのは家具のレイアウトが独特で、テーブルの片方にしか椅子がない。つまり小学校の教室みたいなことになっていて、座るといやでも前方を向くことになる。その前方の壁際には先生の代わりに巨大なスピーカーが2つ並んで立っていて、かなりの音量を鳴らしている。数人の男性客はみな無言でその音に身をゆだねている。そして指や足がタクタク動いている。隣の客が分厚い2冊のメニューを繰っているのでずいぶんたくさんメニューがあるようだと思ってよく見たら、それはレコードタイトルのファイルだった(写真でDJカウンタの下に写っているもの)。
これまた中高年のウエイターがオーダーを取りにきたのだが、前にラジオ番組かなにかで昔ジャズ喫茶ではおしゃべりは禁止だった、と 言っていたので隣の客に怒られないように口パクで(ホットコーヒー・・・)と頼んだら「ホットコーヒーひとつ!」と普通に注文を通していて少し安心した。
植草甚一に「モダンジャズの勉強をしよう」という本もあるが、教室みたいな喫茶店に座って、やはりジャズはお勉強するものらしい、と思った。