鉄骨で古民家の耐震リフォーム

由比ガ浜通りに、通りかかった観光客のほとんどがガラス越しに中を覗くお店があります。包丁などの刃物を扱っている「菊一商店」です。歴史を感じさせる店舗の内部では親子2代の職人がいつも刃物を研いでいます。じつは店主の菊一さんはこの商店街の景観協議会の会長で、いつもまちづくりのプロジェクトでお世話になっています。お店は昭和11年に建てられた築80年の建築です。昨年、リフォームを依頼され、内装をきれいにする計画を進めてきました。
しかし、その計画中に熊本の地震もあり、耐震補強もすることになりました。店は間口がすべてガラスの開口部で横揺れに弱い構造になっていました。そこで筋交いを入れて横揺れに対して踏ん張れる補強を提案しました。しかしそのためには工事中は店を休まなければならないし、また筋交いが入ることで店内のデザインに影響が出ます。店の中をいじらないで耐震性を持たせることができないかという要望に対して、外部から鉄骨で補強するアイデアを検討しました。
外壁に沿って何本かの鉄骨の柱を立て、それらを横につないで立方体フレームにしました。写真をよく見てもらうと屋根の上に水平の部材が浮かんでいるのが分かります。H鋼の梁です。それが建物の左右でH鋼の柱につながっていて、門型のフレームになっています。それはまた後ろにもつながっていて建物を囲みながら、木造の柱、胴差、梁にボルトで留めつけられていて、ギプスのようにがっちりと補強しているのです。細いH鋼なので地震時には木造建物と合わせて揺れながら骨組みを保持し、2階が落ちてくるような倒壊は避けられるはずです。
鉄骨の表面はリン酸処理という黒っぽいメッキで色づけされているため目立ちません。また屋根の上の鉄骨には杉板をはめ込んで着色しているので屋根に同化しています。隣家との隙間が狭いのですが15㎝の出っ張りで納まったので裏への行き来が妨げられずにすみました。内装だけでなく外壁やテントもきれいになりました。今菊一さんは看板も木製で新調しようと銘木を探しているところです。