昭和中期に建てられた木造住宅が鎌倉にはまだたくさん残っています。昭和中期とは昭和20年代から40年代にかけての時代です。戦後の高度成長期といってもいいかもしれませんが、いわゆるショウワな感じといった場合にイメージする、サザエさん的な、みんなが中流意識と戦争の記憶をもっていた、あの時代。その昭和中期の住宅はいまでは古民家の仲間に入っていますが、それらは古民家と言っても農村のそれのような骨太の民芸調のものでも贅沢な意匠を凝らした別荘風のものでもなく、アルミサッシや新建材がほとんど使われていない木でできたチープシックな「昭和民家」とでも呼びたい小住宅です。
そんな昭和民家に共通の特徴として、外まわりの木部を塗装する場合にある決まった色に塗ることが多かったようです。それは茶色と紫色を混ぜたような色、あるいはもみじとかあずきのような色、身近なところでは三菱鉛筆UNIの色です。専門的に言うと日本の伝統色の「えびいろ」あるいは「えびちゃいろ」です。えびとはえびかずらというヤマブドウの実が由来だそうで、海のエビに由来する「海老茶色」とはちがいます。漢字で書くと「葡萄色」「葡萄茶色」です。ようするにワインレッドか。
そんな派手な色に塗った家ばかりだったわけはないだろう、と思うかもしれませんが、気にしながら鎌倉をあるくと意外にたくさんこの色に塗られた家を見ることができます。写真のように家全体をえびいろで塗った例も少なくありませんが、戸袋や破風板や板塀など一部の木のところにえびいろを使っている古い家はそこかしこにあります。それは鎌倉に限ったことではないかもしれません。実は私が小学生の頃住んでいた秦野の家もこの色だった記憶がありますし、妻の東京の生家もこの色だったそうです。やはり昭和の流行だったのでしょうか。
先日、ある現場で塗装業の親方にその話をしたらそれはベンガラの褪せた色かなと言っていました。ベンガラって神社に塗ってある紅い色?ちょっと違う気がするけど。調べたら土から取れる酸化鉄をもとにした江戸時代からの顔料のようです。自分では使ったことはないとのこと。何年塗装職をやってるのか聞いたら30年だそうで、彼が家を塗り始めた頃にはすでに昭和も後期に入っていたわけです。木の壁はオスモで塗ることが多いですと言っていました。ドイツの健康塗料もいいけど、白ワインの国ですからえびちゃ色はないでしょ。