津波避難シミュレーション動画

3.11から5年の節目ということで、このところ震災関連の報道が多い。インタビュー番組などでよく言われているのが震災のことを「忘れないで」というメッセージである。忘れないことがなぜ大切なのか。それは一つには忘れないことが東北の復興を支える力になるということ、もう一つは東北以外の地域でも災害に対する防災意識を高めることにつながるからだろう。
鎌倉も海があるので当然大地震が起きれば津波が来る可能性がある。鎌倉市のHPで「津波避難シミュレーション動画」を見ることができる。(https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/sougoubousai/tsunami_simulation.html 
地震発生直後からの、道路上を避難者が逃げていく様子が動画で表現されている。地震の型や発生時刻の異なる二つのパターンが用意されているが、いずれも浸水域にいる人が全員避難するのに1時間近くかかる予想になっている。ところが、昨年発表された神奈川県の最新の予測によると「相模トラフ海溝型地震」が発生した場合、鎌倉の由比ガ浜には13mの津波が14分で、七里ヶ浜には14.5mの津波が10分で到達するという。シミュレーション動画の地震発生後10分のシーン(下図)では多くの人がまだ避難の途中である。青のドットが一般人、赤のドットが高齢者や要介護者を示している。みんな高台にむかって進んでいるところだ。そこにこの地図の下半分くらいを津波が襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


これはまずい、と誰もが感じるだろう。つまりこの動画は津波で多くの人的被害が出ることを鎌倉市のHPで広報しているということで、いやが上にも防災意識が高まる。

じつはこのシミュレーション動画、3年前の2013年につくられたもので、そのときの県の津波予測では津波が来るまでに50分ほどかかるとされていた。だからこの動画では地震発生後50分のシーンではじめて津波が到達する(そのとき人はあらかた避難し終わっている)。それが昨年になって予測が10分に早まったわけだ。

鎌倉市のHPによると、昨年12月に市は新たに津波シミュレーション動画を作成するための公募型プロポーザルを行って業者を選定したとある。今月末が納期である。よく見ると「津波避難シミュレーション動画」ではなく、「津波シミュレーション動画」であり、名称から「避難」がなくなっている。
プロポーザルの質疑回答によると、「14メートル級」「到達時間10分程度」の想定で制作するよう指示されている。つまり県の最新の予測と齟齬がないように動画を作り直すという意図だと考えられる。さて、その動画には人の避難状況を示す何らかの情報が入るだろうか?いや、入らないだろう。だって「津波シミュレーション動画」なんだから。
そして、その新しい動画が4月に市のHPにアップされたとき、これまでの「津波避難シミュレーション動画」はどうなるのだろうか。県の新しい予測に即した新しいシミュレーション動画と入れ替えました、ということになる可能性が高い。

だから、私たちは今の動画の地震発生後10分のシーンを心に刻んでおこう。忘れないで。