堤さんご夫婦の住まいに対する要望をうかがい、ご主人の要望スケッチも見せてもらって、設計のプロセスが始まりました。お二人の要望の数はそれほど多くはないのですが、住まい方のイメージはちゃんとお持ちで、それはお話や要望スケッチからわかります。その要望を敷地条件や予算の枠内で具体的な空間の形にするのが設計の仕事です。そして建て主が気づかない敷地の特徴を考慮したり、何十年か後の家族の形を想像したり、耐震や暑さ寒さに対する性能を計算したりするのも設計のプロとしての業務です。もちろんデザインも重要で、居心地のいい室内とまち並みにあった外観を心がけます。
前回の設計打ち合わせの中で、堤さんたちの住まいのイメージは、ものを見せないすっきりした部屋で家族いっしょの時間を大切にすごすことと理解しました。収納庫に道具や服などすべて仕舞って室内には棚やタンスなどの収納を感じさせるものをなくしたいと言われ、要望スケッチには寝室より大きなウォークインクローゼットが描かれています。また、大きなダイニングテーブルとみんなで料理できるキッチンがほしいし、大きなソファで団らんの楽しめる居間にしたいとの希望です。そのほか、個室は最小限でいい、土間があるといい、風呂から緑を眺めたいなどの要望も出ました。
これらの要望をうかがったので、私は案を具体的に考え始めました。そしてその2週間後の打ち合わせでお出しした基本設計の第1案が上の写真です。これは居間が2階にあるプランで、眺めの良さと高い天井をもつ2階を団らんのためのスペースにしました。土間のあるアイランドキッチンがあり、そして大きな納戸を居間のとなりにつくってあります。一方、1階には大きなワンルームの寝室がありますが、この部屋は仕切ったりつなげたり二段ベッドをつけたりできる仕組みです。予算と坪単価から延べ面積は28坪に納めています。
これはたたき台で、要望を敷地と予算にあてはめて条件の整理をすることが今回の案の目的です。これを見ながら議論したところ、2階にトイレはいらない、洋服収納は寝室に近くに、テレビのかわりに薪ストーブを置けるか、バルコニーをつけたい、などの意見が出ました。それらは次の案で検討されます。こうしたやりとりをくり返す中で、新しい気づきがあったり暮らしのイメージの修正があったりして設計は進んでいきます。このキャッチボールをたっぷりするほど、本当に気に入った自分たちだけの住まいに近づくのだと思います。