カマキンの最期


この建物のことはいつもキンビと呼んでいて、カマキンと呼ばれているとは知らなかった。2年前にこの美術館をテーマにしてワークショップを企画したときに、学芸員の方からその呼び方を初めて聞いたと思う。確かに近代美術館は各地にあるので、鎌倉にある神奈川県立近代美術館鎌倉館を特定するのにカマをつけたい気持ちはわからないではない。

しかし、この建物は日本で最初に建てられた近代美術館ではなかったか。つまり建ったときは日本で近代美術館と呼べる施設はこの建物だけで、キンビといえばここのことだったわけだ。それが後年、他のキンビと区別するためにカマキンになったのだろう。 
シンケルという18世紀ドイツの建築家の代表作にアルテス・ムゼウムという美術館がある。 見事な列柱を持つポーチコで有名な建物だが、なぜその名前なのか最近知った。ドイツ語でアルテスとは古いという意味で、シンケルの美術館ができたあとに別の敷地に新しい美術館が建てられて、シンケルのは「古い方の美術館」と呼ばれることになったそうだ。カマキンも同じリクツなわけだ。
だがカマキンという呼び方はもう必要なくなる。来年1月末をもって美術館としての使用は終わるからだ。幸い多くの人たちの努力によって建物は保存されることがほぼ決まったようだが、次の用途はまだわからないし、耐震補強を含む大幅な改修工事が見込まれている。
カマキンという名前と美術館としての空間の最期はあと2ヶ月と迫っている。